
職場における「敬意」を育む:能動的な取り組みとは

皆さん、こんにちは。生産性高く、幸せな職場づくりは進んでいますか?ラボラティック株式会社代表の野口麗奈です。今日は、私たちの身近にもある、職場での敬意の払い方について、大変興味深い記事をお届けします。ぜひ、皆さんの組織運営のヒントになれば幸いです。注:記事の出典は、ラボラティックとパートナ関係にある、世界的な従業員経験プラットフォームを提供するCulture Amp社の「Creating respect at work: A proactive approach」を日本の読者様向けに訳したものです。
目次
・安全・敬意・インクルージョン(包摂性)のある職場を実現するための3つの重要なアプローチ
1.「声を上げられる文化」を醸成する
2.インターセクショナリティの視点を取り入れる
3.教育とトレーニングを強化する
・より敬意とインクルージョンのある職場づくりを目指して
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近年、職場におけるセクシュアルハラスメント、いじめ、差別は、倫理的・法的な問題であるだけでなく、重大な経営リスクでもあるという認識が広がりつつあります。こうした問題は、企業の評判を傷つけ、生産性を低下させ、優秀な人材の獲得や定着を困難にする要因となります。
しかし、こうした認識が高まっているにもかかわらず、性差別や女性蔑視、職場でのセクシュアルハラスメントに関する告発は、いまだ世界中のメディアを賑わせています。
オーストラリアやイギリスでは、新たに「ポジティブ・デューティ(前向きな義務)」という法的義務が導入され、セクシュアルハラスメントの防止とジェンダー平等の推進に向けたプロアクティブ(予防的・先回り)なアプローチが求められるようになりました。これは、ハラスメントが起こった後に対応する「リアクティブ(事後対応型)」なやり方とは大きく異なります。ポジティブ・デューティは、企業に対して、問題が発生する前にその予防に取り組むことを義務づけるものです。
この「リアクティブからプロアクティブへ」というパラダイムシフトは、すべての人が安心して働ける、安全で敬意に満ちた、インクルーシブな職場環境をつくるうえで不可欠です。しかし、真の課題は、このポジティブ・デューティの義務をどのように実行に移し、職場におけるセクシュアルハラスメントを根絶し、実質的なカルチャー変革を実現するかにあります。
オーストラリア人権委員会(Australian Human Rights Commission)は、企業がポジティブ・デューティを果たすために取り組むべき7つの重点分野を明示しています:
(1)リーダーシップ、(2)組織文化、(3)知識の提供、(4)リスクマネジメント、(5)従業員支援、(6)報告・対応・モニタリング、(7)評価と透明性。
本記事の執筆者は弁護士であり、職場文化に関するコンサルティングを行う会社の創業者として、さまざまな業界の企業と協働し、ポジティブ・デューティへの適切な対応と組織文化の強化を支援しています。
この活動を通じて、職場における「安全」「敬意」「インクルージョン(包摂性)」を実現するうえで、特に重要な3つの行動があることを明らかにしてきました。
安全・敬意・インクルージョン(包摂性)のある職場を実現するための3つの重要なアプローチ
安全で敬意と包摂性のある職場を築くには、単に方針を掲げるだけでは不十分です。望ましくない行動が深刻化する前にそれを防ぐための、プロアクティブで意図的な取り組みが必要です。ここでは、職場文化を本質的に変革し、ポジティブ・デューティの義務を果たすために、組織が注力すべき3つの重要な領域をご紹介します。
1. 「声を上げられる文化」を醸成する
職場での有害な行動を排除するうえで最大の障壁のひとつは、多くの人が沈黙を選ぶという事実です。これまで15社以上でカルチャーレビューに携わってきた経験から、セクシュアルハラスメントやいじめ、差別といった行動を報告する人の割合は、全体のわずか2~10%程度であることが分かっています。しかし、組織が把握していない問題にどう対応できるでしょうか?
大きな問いは、「なぜ人々は声を上げないのか?」という点です。多くの場合、それは「深刻な問題ではないと思っている」「報復を恐れている」「組織が適切に対応してくれると信頼できない」などの理由によります。だからこそ、「声を上げる文化(speak-up culture)」の醸成が極めて重要なのです。従業員が安心して声を上げられる環境が整っていれば、組織のリーダーは問題を早期に発見し、対処することが可能になります──これこそが、ポジティブ・デューティの本質です。
声を上げられる文化を育むには、報告がしやすく、かつ安全であることが不可欠です。そのためには、匿名報告も含めた複数の報告チャネルを整備することが有効です。筆者自身、今年オーストラリアで初めて、トラウマに配慮し、文化的安全性も確保した独立系の報告・支援プラットフォームを立ち上げました。これは報告件数の少なさという課題を打破するために設計したものです。
筆者は常々、クライアントに「報告件数が増えるのは、前向きな変化の兆し」だと伝えています。それは、組織の仕組みが機能している証拠であり、やがて行動や意識が変わることで、報告件数は自然と減少していくのです。声を上げられる文化は、組織が職場文化を改善し、より深い構造的課題にアプローチするための鍵でもあります。
2. インターセクショナリティの視点を取り入れる
ジェンダー不平等に加えて、「交差的差別(インターセクショナル・ディスクリミネーション)」も、職場におけるセクシュアルハラスメントを引き起こす大きな要因となっています。インターセクショナルなアプローチとは、職場における不平等が単一の属性によって生じるのではなく、複数のアイデンティティが重なり合うことで、複雑かつ独自の脆弱性や差別が生じることを理解する視点です。
たとえば、移民であり、LGBTQI+コミュニティの一員でもあり、障害を持つ女性の場合、複数の差別が重なることで、セクシュアルハラスメントの経験がより深刻なものになります。彼女は、性別だけでなく人種や出自にまつわるステレオタイプにも直面し、文化的・言語的・アクセシビリティの壁から、報告や支援を求める際にさらなる困難を抱える可能性があります。
このような複雑な現実に向き合うには、画一的な対応では不十分です。インターセクショナルなアプローチを採用することで、企業はより柔軟で包括的な施策やサポート体制を構築できるようになります。これにより、すべての人に対して真に効果的で公平な対応が可能になります。
3. 教育とトレーニングを強化する
職場でのセクシュアルハラスメントに関する正しい理解は、いまだ十分に浸透していません。2022年にオーストラリアで実施された全国調査では、法的な定義に基づき「セクシュアルハラスメントを受けた」と回答した人のうち、実際にそうした行動を受けたと報告した人は28%にとどまりました。
セクシュアルハラスメントは、日常的な性差別的言動から、より重大な性的暴力まで、さまざまな形をとります。一見「悪気のない」コメントや冗談、軽口であっても、それがハラスメントに該当する可能性があることを全員が認識する必要があります。こうした「軽度に見える」行為を見過ごすことが、より深刻な不正行為の温床となるのです。
企業は、従業員が有害な行動を正しく認識し、自らの責任と役割を理解し、「傍観者」ではなく「アクションを起こす当事者(アップスタンダー)」になるための、高品質かつエビデンスベースの教育・トレーニングに投資すべきです。形式的なコンプライアンス研修だけでは、意識や行動の変容にはつながりません。
教育の効果を測る際には、「どれくらいの頻度で実施したか」ではなく、「教育の質・アクセスしやすさ・実効性」を重視すべきです。また、リーダーが継続的に、かつ一貫してその重要性を伝え続けることが、組織に浸透させるうえで欠かせません。
より敬意とインクルージョンのある職場づくりを目指して
敬意と包摂性のある職場をつくることは、単に法的義務を満たすためのチェックリストではありません。それは、組織の人々、そしてビジネス全体のために「正しいことをする」姿勢そのものです。反応的な対応から、予防的・積極的なアプローチへと移行することは、大きな転換点であり、あらゆる背景や地域にいる人々が安心して、自分が尊重され、大切にされていると感じられる文化を築く絶好のチャンスです。
「声を上げられる文化」の醸成、インターセクショナリティの尊重、そしてインパクトのある教育の提供に注力することで、組織は本質的な変化を実現することができます。それは単に義務を果たすということではなく、誰もが真に活躍できる、多様性・公平性・インクルージョンに富んだ職場の基盤を築くことに他なりません。そしてそれは、最終的に私たち全員にとっての利益となるのです。
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