
なぜ職場におけるダイバーシティは重要なのか?

皆さん、こんにちは。生産性高く、幸せな職場づくりは進んでいますか?ラボラティック株式会社代表の野口麗奈です。今日は、日本でも近年取組が進んでいるダイバーシティについて(米国の政権による判断からも大きな注目を今年浴びていますが)、大変興味深い記事をお届けします。ぜひ、皆さんの組織運営のヒントになれば幸いです。注:記事の出典は、ラボラティックとパートナ関係にある、世界的な従業員経験プラットフォームを提供するCulture Amp社の「Why is diversity important in the workplace?」を日本の読者様向けに訳したものです。
目次
- 基本:職場のダイバーシティとは
- ダイバーシティのある職場に必要な要素とは?
- なぜダイバーシティは職場の発展に不可欠なのか
- ダイバーシティが従業員にもたらすメリット
- ダイバーシティがビジネスにもたらすメリット
- 職場文化とダイバーシティの関係性
- ダイバーシティが職場文化に与える影響
- 一方で、文化がダイバーシティ推進の成否を左右する
- ダイバーシティを磁石のように引き寄せる文化へ
- ダイバーシティ推進におけるよくある課題
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多くの人が、職場におけるダイバーシティ(多様性)が企業やチームにとってプラスであると直感的に理解しています。しかし、なぜそれが重要なのかを具体的に説明できる人は意外と少ないかもしれません。
では、職場においてダイバーシティが重要とされるのはなぜなのでしょうか?そして、単なるバズワードやマーケティング的な取り組みにとどまらず、サポートやインクルージョン(包摂)、従業員エンゲージメントを優先しながら、ダイバーシティの恩恵を最大限に引き出すにはどうすれば良いのでしょうか?
本ガイドでは、職場のダイバーシティに関する以下の疑問にお答えします:
- そもそもダイバーシティとは何か?
- なぜ重要なのか?
- どうすればうまく実現できるのか?
基本:職場のダイバーシティとは
まずはシンプルに「職場におけるダイバーシティとは何か?」という問いに答えてみましょう。
職場におけるダイバーシティとは、異なるバックグラウンド、経験、価値観を持つ人々で構成されるチームを築き、維持することを意味します。
アイロニカルなことに、ダイバーシティという言葉を耳にしたとき、多くの人は「人種」の違いだけを思い浮かべがちです。しかし、ダイバーシティの概念はより広く、以下のようなさまざまな違いを含みます:
- 人種
- ジェンダー・性自認
- 年齢
- 文化
- 宗教
- 障害の有無
- その他多様な属性
ダイバーシティのある職場に必要な要素とは?
ダイバーシティのある職場とは、まず何より「異なる人材」が集まっていることが前提です。
とはいえ、多様な人材を集めるだけでは、ダイバーシティが実現したとは言えません。それは第一歩に過ぎません。
多様性の力を十分に引き出すには、次のような文化的・制度的な要素が必要です:
- インクルージョン(包摂):すべての従業員が意見表明、意思決定、機会への参加において歓迎され、貢献が評価されていると感じられる状態
- エクイティ(公正性):全ての人に公平な待遇と機会が与えられていること(不均衡があれば是正されている)
- アクセシビリティ(利用可能性):能力にかかわらず、職場やツール、リソースが誰にとっても使いやすくなっていること
- オープンなコミュニケーション:すべてのレベルで、敬意と透明性のある対話が行われていること
- 文化的理解:異なる文化的視点、伝統、慣習に対する理解と尊重が促進されていること
- バイアスへの認識と対応:採用や昇進、日々のやりとりにおけるバイアス(偏見)を自覚し、積極的に是正していくこと
- 柔軟な制度:さまざまなニーズに対応できる柔軟な制度やポリシーが整っていること
- 心理的安全性:意見を共有したり懸念を表明したりしても、不利益を被る心配がない環境
- 継続的なダイバーシティ研修:全社員がダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンを理解・実践するための教育機会の提供
- メンタリングと成長支援の機会:すべての社員(特にマイノリティの社員)に成長とキャリア支援の機会を提供すること
なぜダイバーシティは職場の発展に不可欠なのか
ここからが本題です。
なぜダイバーシティは、職場においてそれほどまでに重要なのでしょうか?
それは、イノベーションの促進からビジネス成果の向上に至るまで、個人・組織の双方にとって多くのメリットをもたらすからです。
ダイバーシティが従業員にもたらすメリット
✔ より高い仕事満足度
多様な経験を持つ自分自身が、尊重され、価値ある存在として扱われていると感じられるとき、従業員は仕事への満足度が高まり、それがエンゲージメント向上、生産性向上、そして会社への忠誠心にもつながります。
✔ 学びと成長の機会の増加
従業員は職場での成長を求めています。スキルの習得だけでなく、新しいアイデア、文化的視点、問題解決のアプローチに触れることも重要です。ダイバーシティのある職場は、共感力・対話力・協働力を育む土壌となります。
✔ 帰属意識の強化
自分が職場の一員として認められ、受け入れられていると感じることで、帰属意識が高まります。そしてこれは単なる“心地よさ”ではなく、パフォーマンスや離職率にも直結する重要な要素です。
✔ ウェルビーイング(心身の健康)の向上
排除されたり、差別を感じたりする職場は、従業員にとって大きなストレス源となります。一方で、支援的かつ包摂的な環境は、精神的な安心感をもたらし、健康状態にも良い影響を与えます。
ダイバーシティがビジネスにもたらすメリット
✔ イノベーションと創造性の向上
多様な視点に耳を傾けることで、今までにないアイデアや解決策が生まれやすくなります。多くの研究で、同質的なチームよりも異質性の高いチームの方が創造的で生産性が高いという結果が示されています。
✔ 問題解決能力の強化
異なるバックグラウンドを持つメンバーで構成されたチームは、問題に対して多角的にアプローチできます。ある研究では、ダイバーシティのあるチームの意思決定は、そうでないチームと比べて60%も良い成果を生んでいると報告されています。また、認知バイアス(例:グループシンク)を避ける効果もあります。
✔ 財務的パフォーマンスの向上
「ダイバーシティは企業の業績に影響しない」と考える方もいるかもしれません。しかし実際には、ダイバーシティに富んだ企業ほど高い収益性を示す傾向があります。McKinseyの調査によれば、取締役会のジェンダーダイバーシティが上位四分位の企業は、最下位四分位の企業よりも27%も財務パフォーマンスが高いと報告されています。
✔ 採用力・ブランド価値の向上
求職者や顧客、投資家は、ダイバーシティを大切にしている企業に好印象を持ちます。実際、53%の求職者が「DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)への取り組みが就職先選びに影響する」と回答しており、75%の消費者が「DEI方針が購入判断に影響を与える」と述べています。
職場文化とダイバーシティの関係性
ダイバーシティ&インクルージョン(DEI)の取り組みは、職場文化と切っても切り離せない関係にあります。
言い換えれば、職場文化とDEIは表裏一体の存在です。
DEIの取り組みが職場文化を形作り、また職場文化がDEIの効果を左右します。
ダイバーシティが職場文化に与える影響
ダイバーシティへの真摯な取り組みは、以下のように職場文化をより健全で前向きなものへと変化させていきます。
- 視野の拡大:異なる価値観や考え方を受け入れることで、社員の思考の幅が広がり、オープンマインドな文化が醸成されます。
- 信頼と心理的安全性の構築:社員が安心して自分の意見やアイデアを出せる文化が生まれ、建設的な対話が可能になります。
- 公平性と尊重の文化の確立:誰もが平等に扱われ、尊重される職場では、敬意を持ったコミュニケーションが根づきます。
- 共感と異文化理解の促進:文化的な違いを理解し合うことで、社内の人間関係が強化され、無用な誤解も減少します。
- 責任感と学び続ける姿勢の強化:多様な視点に触れることで、組織全体がより良くなるための改善意識と当事者意識を持てるようになります。
一方で、文化がダイバーシティ推進の成否を左右する
ダイバーシティの取り組みにおいては、「職場文化が取り組みの効果を大きく左右する」という点も忘れてはなりません。
たとえば、どれだけ多様な人材を採用しても、その人たちが心理的安全性や平等な成長機会を感じられない職場であれば、その努力は空回りしてしまいます。そればかりか、従業員エンゲージメントやウェルビーイングの低下を招くリスクすらあります。
一方、インクルーシブな文化が根づいている職場では、ダイバーシティは「共有された価値観」として受け入れられます。
それは単なるKPIやイメージ戦略ではなく、「私たち全員が大切にしているもの」として自然に根づいていくのです。
ダイバーシティを磁石のように引き寄せる文化へ
本質的にインクルーシブな文化が根づいた組織は、ダイバーシティのある人材を惹きつけます。
こうした組織では、ダイバーシティとインクルージョンの取り組みが互いに補完し合い、「またここで働きたい」と思える職場が生まれていきます。
ダイバーシティ推進におけるよくある課題
職場におけるダイバーシティの重要性は多くの人が認識している一方で、その実現に向けては多くの障壁が存在します。ここでは、企業が直面しがちな課題とその影響についてご紹介します。
1. 無意識(あるいは意識的)なバイアスの克服
すべての人が、何らかのバイアス(偏見)を持っています。
それが自覚的であっても、無意識であっても、私たちの判断や行動に影響を与える可能性があります。
たとえば、「自分と似た背景や価値観を持つ人を好む」という類似性バイアス(similarity bias)は、採用・昇進・評価などにおいて不公平を生む原因になり得ます。
ただし、バイアスを「ゼロ」にすることは非現実的です。
重要なのは、それに気づき、バイアスの影響を最小限に抑える仕組みを整えることです。
たとえば、以下のような取り組みが有効です。
- バイアスに関する研修の実施
- 構造化された面接の導入
- 継続的なパフォーマンスマネジメントの活用
2. 変化への抵抗への対応
多くの人は、変化に対して本能的な抵抗感を持ちます。
たとえダイバーシティの必要性を理解していたとしても、「これまでのやり方」が変わることに不安を感じるのは自然な反応です。
そのため、以下のような反発や懸念が生じることもあります:
- 「この取り組みは自分にどんな影響があるのか?」
- 「慣れている仕組みが変えられるのでは?」
こうした抵抗に対しては、丁寧な説明と透明性の高いコミュニケーションが不可欠です。
ダイバーシティ推進の「目的」や「メリット」を、関係者全員に伝えましょう。
3. リソースの制約
本格的なダイバーシティ施策の実施には、時間・予算・専門人材といったリソースが必要です。
しかし、特に中小企業やスタートアップでは、これらが十分に確保できないことも珍しくありません。
その場合は、以下のような創意工夫が求められます:
- 社員主導のダイバーシティ推進グループの設置
- 外部団体との提携・連携によるサポート活用
- 無料または低コストの研修やツールの活用
4. 「見せかけ」ではない、本物のインクルージョンを実現する
多くの企業が「DEIは重要」と表明する一方で、実際には行動に移されていないケースも多く見られます。
たとえば、以下のような実態が問題視されています:
- 64%の企業が「DEIは重要または非常に重要」と回答している一方で、
- 62%の企業は「DEIに対してほとんど、あるいはまったくリソースを割いていない」
つまり、多くの企業が「多様な人材を採用すること」には取り組んでいるものの、「採用後のインクルージョンや成長支援」までは手が回っていないのです。
真のインクルージョンとは、「全員の声が尊重され、活かされる環境」をつくること。
ダイバーシティ推進においては、「数値目標を達成すること」以上に、文化づくりへの投資が重要なのです。
成功するダイバーシティ&インクルージョン戦略の構築
職場におけるダイバーシティの恩恵を最大限に引き出すには、「意図と計画」をもって取り組むことが不可欠です。ここでは、単なるスローガンや形式的な施策に終わらせないための、効果的なDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)戦略のステップをご紹介します。
1. ダイバーシティ目標を明確に設定する
「数値目標の是非」については議論もありますが、次の事実は変わりません:
“測れないものは改善できない”
そのため、まずは何を達成したいのかを定義し、具体的かつ測定可能な目標を設定しましょう。
例:
- リーダー層におけるマイノリティ人材の比率を高める
- 多様なバックグラウンドを持つ候補者の採用比率を上げる
- 社内イベントや研修への参加率を改善する など
こうした目標とKPIは、進捗状況を可視化し、関係者が同じゴールに向かって進むための道しるべとなります。
2. インクルーシブな採用プロセスを構築する
採用プロセスは、ダイバーシティ推進の最前線です。
バイアスの影響を最小限に抑えるため、以下のような改善施策が効果的です:
- 求人票の見直し:性別・年齢・文化的背景などに偏った表現を排除
- 匿名での書類選考:履歴書から個人情報を削除し、公平な初期判断を実現
- 多様な面接官の配置:多様な視点から候補者を評価するための面接パネルの構築
こうした取り組みは、応募者の多様性を高めるだけでなく、採用プロセスそのものの公平性と信頼性を向上させます。
3. 関連する研修を提供する
DEIに関する教育は、経営層や管理職だけでなくすべての社員を対象に実施する必要があります。
たとえば:
- 定期的なワークショップや研修:DEIの重要性や、日常に潜むバイアスへの理解を深める
- マネージャー向け研修:インクルーシブ・リーダーシップ、フィードバックの与え方、多様なチームマネジメントの実践法など
継続的な学びの機会を設けることで、社員一人ひとりが「自分ごと」としてDEIに取り組む文化が育まれます。
ビジネス成果に対する多様性の影響を測定する
戦略の構築は重要ですが、どれほど機能しているかを定期的に測定・検証することも同じくらい大切です。
具体的なデータに基づく評価は、DEI施策の効果を可視化し、改善ポイントの発見や機動的な対応につながります。
データの活用により、以下のようなことが可能になります:
- パターンやトレンドの把握
- プログラムの有効性の測定
- 組織としての説明責任の明確化
- 多様性戦略の継続的な改善
成功指標として追跡すべき主なDEI関連指標
1. 従業員構成比(Employee demographics)
社内における様々な属性(性別・年齢・人種・障がいの有無など)の比率を全階層で把握します。
2. 採用および定着率(Hiring and retention rates)
新規採用者の多様性と、マイノリティ層の定着率を継続的に確認します。
3. 昇進率(Promotion rates)
昇進の過程において偏りがないかを測定。マイノリティの候補者が公平に機会を得ているかを確認します。
4. エンゲージメントと満足度(Employee engagement and satisfaction)
社内サーベイを通じて、「自分らしく働けているか」「尊重されていると感じているか」などの感覚を定期的に把握します。
5. 給与の公平性(Pay equity)
同一業務・同一スキルにおける報酬の差異が存在しないかを分析します。
6. 研修の受講状況とフィードバック(Training participation and feedback)
DEI関連の研修受講率や参加者からのフィードバックをもとに、内容の改善や対象者の拡充を検討します。
7. リーダーシップ層の多様性(Diversity in leadership)
経営陣や取締役会レベルの多様性を追跡し、意思決定の場に多様な視点が反映されているかを確認します。
多様性のメリットは“バズワード”の域を超えている
職場における多様性が重要である理由を問われたとき、逆に「重要でない理由」を挙げる方が難しいかもしれません。
もはや多様性は、バズワードでもマーケティング戦略でも、チェックリストの項目でもありません。
優秀な人材を惹きつけ、エンゲージメントを高め、ビジネスに実質的な成果をもたらすための基盤なのです。
とはいえ、多様なメンバーが在籍しているだけでは十分ではありません。
多様な視点が「聞かれ」「尊重され」「実際に活かされる」文化を育ててこそ、その恩恵を享受できます。
言い換えれば──
多様性を称えるカルチャーは、多様性そのものを引き寄せる磁石のような存在になります。
そうした組織には、さらに多様で有能な人材が集まり、インクルージョンと多様性が相互に強化されながら循環していく。
その結果、誰もが「この職場で働きたい」と感じる、魅力的な環境が生まれるのです。
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ラボラティック株式会社 広報担当